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紅蓮の月~ゆめや~

第2章 紅蓮の月

 夜空を振り仰ぐと、中天にかかった十六夜の月が物も言わず見下ろしていた。燃えるように紅い月であった。信長が来る前は白っぽく見えた月が今は見事なほどに紅く変じている。
 まるで人の血を思わせるような、禍々しい色に染まった月はひときわ大きく見え、間近に迫っていた。
―不吉だけれど、美しい。
 帰蝶は紅い月を魅入られたように見つめた。
―美しいすぎるものにはよくよくご用心なさいませ。昔から美しいものには魔が潜むともうしますから。
 そう言ったのは、確かもう亡くなった乳母であっただろうか。幼い帰蝶に美しく輝く満月を眺めながら、乳母が語り聞かせた言葉。
 あの時、乳母の腕に抱かれて見上げた月もやはり、燃え盛る焔を身の内に宿したように紅かった。

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