紅蓮の月~ゆめや~
第3章 紅蓮の月 二
「そんなに欲しければ、マムシの父娘(おやこ)にこの信長の生命くれてやるわ」
信長は口の端を引き上げたままの表情で帰蝶に近づいた。
「さあ、これで儂を殺せ。そなたの父に命じられたままに儂を殺すのだ」
信長が懐剣を帰蝶の手に握らせようとする。その切っ先は依然として信長自身に向けられている。
帰蝶は夢中で激しく首を振った。それでもなお、信長は懐剣を持たせようとする。帰蝶のか細い肢体はまるで瘧にかかったかのように小刻みにわなないた。やがて、帰蝶の手からポトリと懐剣が落ちた。
「どうした? またとない好機だぞ?」
信長はなおも挑発めいた台詞を口にする。だが、帰蝶の中で信長への殺意は既に完全に消失していた。
信長は口の端を引き上げたままの表情で帰蝶に近づいた。
「さあ、これで儂を殺せ。そなたの父に命じられたままに儂を殺すのだ」
信長が懐剣を帰蝶の手に握らせようとする。その切っ先は依然として信長自身に向けられている。
帰蝶は夢中で激しく首を振った。それでもなお、信長は懐剣を持たせようとする。帰蝶のか細い肢体はまるで瘧にかかったかのように小刻みにわなないた。やがて、帰蝶の手からポトリと懐剣が落ちた。
「どうした? またとない好機だぞ?」
信長はなおも挑発めいた台詞を口にする。だが、帰蝶の中で信長への殺意は既に完全に消失していた。