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紅蓮の月~ゆめや~

第5章 第二話【紅蓮の花】 プロローグ

「この店においでになるお客様は皆さん、心に何かを抱えているのです。そして、どなたもそのときに着てみたいとお思いになった着物をお選びになる。この店の特色は、お客様が選んだ衣装のかつての持ち主が生きていた時代へと行けること。だから、『夢』を売る店なのです」
「選んだ衣装のかつての持ち主が生きていた時代―」
 花凛は女主人の言葉をそのままなぞりながら、茫然とした。つまり、現代から、古着の元々の持ち主が生きていた過去へと時を遡ることができるということなのだろう。映画や小説ではあるまいに、そんな現実離れしたことが果たして現実に起こり得るのだろうか。自分が子どもだから、からかわれているのかとも思ったが、眼前の女主人は至って真面目な表情である。ならば、やはり、この美しい女性は気の毒に気が狂っているのだろうかとも思った。

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