紅蓮の月~ゆめや~
第5章 第二話【紅蓮の花】 プロローグ
そんな風に思うと、雨の中、ひっそりと佇む小さな古い店の中でこの美しい人と二人きりでいるのが急に怖くなった。派手やかな美人にも拘わらず、影のようにひっそりとまるで存在感がないのも不気味だ。考えてみれば、この小さな町で生まれ育って十七年になるけれど、花凛は「ゆめや」なるこの店のことをまるで知らなかった。主の女性同様、全く人目に立たない不思議な店なのだ。
―帰らなきゃ。
花凛は思った。一刻も早く、ここから出なくてはならない。
と、女主人と眼が合った。女主人は相も変わらず、穏やかな笑みを浮かべたまま、花凛を見ている。彼女の背後には大きな柱時計があり、カチコチと音を立てている。降りしきる雨音に包まれたこの店の中だけが周囲の現実から遠く隔絶された別世界のようでもある。雨音だけに塗り込められた静寂の中、柱時計が静かに刻(とき)をきざむ音だけが妙に耳についた。
―帰らなきゃ。
花凛は思った。一刻も早く、ここから出なくてはならない。
と、女主人と眼が合った。女主人は相も変わらず、穏やかな笑みを浮かべたまま、花凛を見ている。彼女の背後には大きな柱時計があり、カチコチと音を立てている。降りしきる雨音に包まれたこの店の中だけが周囲の現実から遠く隔絶された別世界のようでもある。雨音だけに塗り込められた静寂の中、柱時計が静かに刻(とき)をきざむ音だけが妙に耳についた。