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紅蓮の月~ゆめや~

第6章 第二話【紅蓮の花】 二

     二

 夕刻から降りしきる雨は雪になった。
 凛子の許には再び義経のお渡りがあった。
 だが、昼間のように義経は凛子を求めてはこなかった。凛子が忠衡の来訪を告げ、泰衡の周囲で不穏な動きがあるので、十分注意するように言っていたと話しても、義経は「そうか」と応えただけであった。
 その顔にはさざ波立つほどの表情の変化もない。だが、凛子は義経のその反応も予期していたことだった。義経は既に死を覚悟している。否、むしろ、恋い慕う義兄の手にかかって死ぬことができれば本望だとさえ思っているのではないか。
 傍にいる凛子には、たとえ義経が口に出さずとも義経の心情を察することができた。
 義経の意向で、凛子は侍女に命じて酒を持ってこさせた。侍女を退がらせ、義経は凛子の酌で盃を重ねた。

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