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紅蓮の月~ゆめや~

第6章 第二話【紅蓮の花】 二

「凛子、凛子が忠衡殿と二人で私を見送りに来てくれた日のことを憶えておるか?」
 唐突に問われ、凛子は小首を傾げた。
「それは、殿が鎌倉へお行きになる日のことでござりますか」
「ああ、あの日、そなたと忠衡殿が二人で旅立つ私を見送ってくれた」
 九年前、凛子は忠衡と共に二人で鎌倉へ向けて旅立つ義経を国境(くにざかい)近くまで見送った。
「忠衡殿は凛子に惚れておったのだぞ」
「え―」
 凛子は絶句した。思いもかけない言葉だった。実は、凛子は今西家の本当の娘ではない。凛子の生母である今西局の妹が他家へ嫁して生んだ娘、つまり姪に当たった。しかし、凛子の両親が幼い凛子を残して相次いで亡くなったことから、伯母である今西局が凛子を引き取ったのだ。だが、凛子は今西家の両親を実の親と思い、実子のおらぬ今西の父母も凛子を真の娘として慈しみ育てた。

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