紅蓮の月~ゆめや~
第6章 第二話【紅蓮の花】 二
愕きのあまり声もない凛子に、義経は淡々と言った。その視線はずっと雪の庭に向けられている。
「出立の前日、忠衡殿が突然私を訪れ、凛子が私に惚れていると言った。だから、自分は凛子に惚れているが、潔く身を退くと申されたのだ。もし、私にその気がないのなら、その場限りのおざなりな言葉なぞ言わず、いっそはっきりと凛子をふってやってくれとも言われたよ。あの時、私は再びこの地に戻ってくるという保証は何らなかった。変に期待を持たせて空しく待たせることだけは止めて欲しいと懇願されたのだ」
凛子は意外な真実に茫然とした。忠衡のいかにも武士らしいいかつい顔を思い出していた。主君秀衡の三人の倅の中では、次男の忠衡が最も秀衡の気性をよく受け継いでいると云われている。しかし、いかにせん、藤原氏の現在の主は長男泰衡だ。
「出立の前日、忠衡殿が突然私を訪れ、凛子が私に惚れていると言った。だから、自分は凛子に惚れているが、潔く身を退くと申されたのだ。もし、私にその気がないのなら、その場限りのおざなりな言葉なぞ言わず、いっそはっきりと凛子をふってやってくれとも言われたよ。あの時、私は再びこの地に戻ってくるという保証は何らなかった。変に期待を持たせて空しく待たせることだけは止めて欲しいと懇願されたのだ」
凛子は意外な真実に茫然とした。忠衡のいかにも武士らしいいかつい顔を思い出していた。主君秀衡の三人の倅の中では、次男の忠衡が最も秀衡の気性をよく受け継いでいると云われている。しかし、いかにせん、藤原氏の現在の主は長男泰衡だ。