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紅蓮の月~ゆめや~

第6章 第二話【紅蓮の花】 二

 もしかしたら、それは哀しい片思いなどではなく、ちゃんとした一つの愛し方なのかもしれないと凛子は少しだけ今の自分の義経への愛を誇らしく思うことができた。
「殿は―後悔はなさっておられないのですか?」
「後悔とは?」
 義経の呟きに、凛子は思い切って言った。
「私をお側に置いて下さったことを後悔なさったりはしないのでございますか」
 凛子の問いに、義経が振り向いた。初めて凛子を見る彼の眼は、不思議そうであった。
「何故、そのようなことを訊く」
 凛子は真正面から義経の視線を受け止めかね、うつむいた。まだ見たこともない、凛子の知らぬ人々の顔が次々と脳裡をよぎった。義経の寵愛を一身に集めた静は都一の艶やかな舞姫と謳われた。頼朝の命で娶った正室とも夫婦仲はこまやかで、一男一女をあげたと聞いている。そして、何より、義経が焦がれて止まぬ兄頼朝の存在。

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