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側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】

第14章 第三話 【むせび泣く月】 意外な事実

 ソンが少し情けなさそうな表情で頷いた。
「呆れるだろう? 良い歳をした大の男が自分の家から逃げ出すだなんて。しかも、私は、大きな責任を背負っていたんだ。その責任を放り出して、自分だけ一人でさっさと逃げ出すだなんて、とんだ卑怯者だ」
「そんな哀しい言い方、しないで。ソンらしくないわ」
「私らしい? キョンシル、一体、自分らしさって、何なのだろう。私は自分の家に暮らしていながら、とうに自分らしさなんて見失っていたんだよ。本当の自分は何を望み、何がしたいのか。ただ決められた道を歩み、周囲の望むがままの偽りの自分を演じてきたにすぎない。それが、十八年間のこれまでの人生のすべてだった。その挙げ句、突然、生命の危険に晒され、這々の体で逃げてきたんだ」

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