側にいられるだけで④【牡丹の花の咲く頃には】
第18章 第四話 【牡丹の花咲く頃には】 祖父の願い
積もるかと思った雪は意外にもあっさりと止んだようだ。狭い路地には、うっすらと白い名残が残っているだけであった。
蒼白い月は凍れるように玲瓏で美しい。女人の眉を彷彿とさせるような繊細な月が冷たく冬の空を飾っていた。
ふと足許に咲く椿の鮮烈な色が血を思わせ、トスは慌てて首を振った。天下の崔イルチェと謳われた、先代の王の腹心にして、漢陽でもその名を知らぬ者はない名門崔氏の当主。今、真っ赤に燃える巨大な太陽が空を血の色に焦がしながら、墜ちてゆこうとしているのかもしれなかった。
―イルチェさまに何事もなければ良いが。
更に愛する少女の無事をも祈りながら、トスは真夜中の寒さなど感じないかのようにその場に佇んでいた。
蒼白い月は凍れるように玲瓏で美しい。女人の眉を彷彿とさせるような繊細な月が冷たく冬の空を飾っていた。
ふと足許に咲く椿の鮮烈な色が血を思わせ、トスは慌てて首を振った。天下の崔イルチェと謳われた、先代の王の腹心にして、漢陽でもその名を知らぬ者はない名門崔氏の当主。今、真っ赤に燃える巨大な太陽が空を血の色に焦がしながら、墜ちてゆこうとしているのかもしれなかった。
―イルチェさまに何事もなければ良いが。
更に愛する少女の無事をも祈りながら、トスは真夜中の寒さなど感じないかのようにその場に佇んでいた。