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変人を好きになりました

第25章 日時を定めて

「もちろん。すごい……。海に沈んでいく夕日も綺麗なのに、街の明かりも綺麗」

 ゆっくりと立ち上がってガラスに近寄る。手を伸ばしたら届きそうなその光たちは星が地に落ちてきたみたいに見えた。
 透明のガラスに指を添える。
「絵になるな」

 柊一さんの声と一緒に大きな手がガラスを触っていた私の手にかぶさった。
 柊一さんが私の体を囲むように両手をガラスに押し付け、腕で囲いを作ってしまった。
「絵になりますね」
「夜景を見ている古都さんが」
 よくもそんな恥ずかしいことを平然と……!
 振り向いて柊一さんの顔を見たけれどなんとも涼しい顔をしている。
「なんだ?」
 ふんっと鼻をならして夜景に顔を戻す。やっぱり綺麗だ。

 そこで思い出した。
「柊一さん。私のこと、呼んでみてください」
「古都さん?」
「ほら。古都って呼ぶんじゃなかったんですか?」
 柊一さんがあっと言うように目を丸めた。
「慣れませんか?」
「いや。そんなことは……」
「じゃあ、言ってみて」

 私だって今の今まで敬語を使ったりしていたから偉そうには言えないけれど。少なくとも私は柊一さんと呼びなおしている。

「さっきは余裕がなくなって呼び方まで気にできなかった」
「言い訳はいいから、早く」
 もう夜景なんて気にしていられない。柊一さんをこんなに責められる機会なんて滅多にないのだから。
 涼しい表情が崩れるのを見るために私はくるりと体を回して柊一さんに向き合った。

「古都」
 少しはにかみながら言われた言葉は胸に直接響いた。
「よろしい」
「偉そうだな」
 柊一さんが私の態度に目を細める。ここから見ると夜景の光で柊一さんがキラキラして見える。もっとも普段からキラキラしているが。

「本当に綺麗ですよね」
「古都。今日はたくさん歩いて疲れただろ」
 もうすっかり名前の呼び方をものにした柊一さんがそう言うと同時に私の体が浮いた。

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