禁断の果実 ―Forbidden fruits―
第6章 第6章
ヴィヴィが次に意識を取り戻したのは車の中だった。後部座席に寝かされていたヴィヴィの体にはブランケットが掛けられているようで胸から下は暖かい。ヴィヴィは急に寒気を感じてぶるりと体を震わせると、ブランケットを鼻の下まで手繰り寄せた。
「気が付きましたか?」
頭上から男の声が降ってくる。不思議に思い目をやると執事の朝比奈がヴィヴィを見下ろしていた。いつも優しく細められている銀縁眼鏡の奥の瞳が心配そうな色を湛えている。
(ん……?)
なんで上から覗き込まれているのだろうと不思議に思ったヴィヴィだったが、自分が枕にしているものが暖かくてなおかつクッションなんかよりしっかりした人の足なのだとやっと気づいた。
子供の頃は朝比奈を始め執事達にじゃれ付いて遊んでいたヴィヴィは何度か膝枕を強請ったことはあったが、さすがに初等部高学年頃からはそういう触れ合いもしなくなった。大人の男性に膝枕をしてもらうという状況にさすがに恥ずかしくなって体を起こそうとしたヴィヴィだったが、朝比奈にやんわりと肩を押さえられる。
「もう着きます、いい子だからじっとしててくださいね」
その言い方はまるで幼児に言い聞かせる物言いだ。双子が小さいころから面倒をみてきた朝比奈はそのせいか、男なのにたまに母性を感じさせる時がある。見た目も子供好きしそうな柔らかな印象だから、いい保父さんになれそうだ。
(かたじけない……)
武士のような返事を頭の中で返していると車が止まり、ヴィヴィは屋敷の中へと運び込まれた。私室のベッドに寝かせられるとあらかじめ呼ばれていたらしい主治医が現れた。制服の前を開き聴診器を当てたり、喉を診たりと一通り診察される。
「夏風邪ですな」
子供の頃から診てもらっている主治医が髭を蓄えた口を開き発した病名に、ヴィヴィは冷静に突っ込む。
(知ってる……)
「抗生物質を出しておくから飲ませてくれ。今夜はきっと熱発するから解熱剤も置いていく。じゃあな、嬢ちゃん――ちゃんと寝ておくんだよ。また明日来るから」
喉が痛くて一言も発したくないヴィヴィは、大人しく頷いてみせた。
少し眠った後、昼食の粥をなんとか胃に流し込んで処方された薬を飲む。
「ではちゃんと寝ててくださいね」
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える