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さきゅばす

第5章 ライブのあとで


「どうしよう! ナツさんが部屋に入ったまま出てこない!」

アキは何も言わずにスイートルームに入ると、ナツさんが出てこない部屋のドアを叩いた

「おい、ナツ! 6時には準備終わるからな。7時にはステージに出れるようにしとけよ」

それだけいうと、嘘のようにドアが開いて、ナツさんが出てくる

「分かってるわよ」

アキはため息をついて部屋を出ていくと、ナツさんもついて行く

私はひとり部屋に残されてしまった

「ちょっと、私も行きます!」




ライブ会場はビルの最上階を貸し切って、立ち見で300名ほど入る予定だ

舞台の袖で、会場の様子を映し出すモニターを見る

会場は満席で、ナツさんを呼ぶ声がここまで聞こえる

暗転して映像が流れると観客は静かになった

スタッフがナツさんをエスコートする

「桜ちゃん、行ってくるね」

まるでもう二度と会えないような、悲しい顔をする

「ナツさん! ……ナツさんの思いが、みんなに伝わるのを見てますから! 楽しんできてください!」

ニコッと笑うと、ステージに上がっていった

合図でナツさんは歌い始める

静かな曲だけれど、力強く安定した声

少しずつ歌に感情が乗り始めて、観客の心も同調する

本当にさっきまでの人なのか、疑ってしまう

歌も立ち振る舞いも、テレビで見る菜摘そのまま

私が知っているナツさんの何倍も輝いている



心配していた中国語のトークも、ファンと一緒に楽しんで、すごくウケがいい

「ナツは5年間、中国語を勉強した。まだまだマスターしたとは言えないが、俺は彼女を日本人として尊敬できる」

アキが口元のマイクを手で覆いながら、一緒にモニターを見る

「それ、ナツさんに伝えていいですか?」

「バカ。仕事がやりにくくなる」

2度目のアンコールを終えて、ライブは大成功に終わった

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