巡 愛
第4章 珈琲の
寝室を出て郵便受けから新聞を取り出し、パジャマ姿のままダイニングに向かうと、台所からたまごを焼く甘い匂いが漂ってきていた。
「おはよう」
そう声をかけると、妻は卵焼きの火加減を弱めて、コーヒーをカップに注いでくれた。
「おはよう。はい、コーヒー」
「ん、ありがと。あ、誕生日おめでとう」
「え? あ、ありがとう」
食卓で新聞をひろげ、コーヒーカップを手にしながら、ひっそりと妻を眺める。
朝日に照らされ、鼻歌をまじえながら息子の弁当を作る姿は、化粧もしていないのになんとなく綺麗で、ほんの少し嬉しくなる。
この鼻歌……『スターダスト』か。
「未明」が好きな歌だ。