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好きな人がいた

第9章 社会人五年目

二十代も後半を迎える誕生日の夜、彼の夢を見た。
明日彼と出掛けるから服を買わなくちゃ、という夢だ。楽しくて楽しくてしかたなかった。その夢の中には確かに彼がいた。高校生の姿のまま、あのころの声のまま私の名前を呼ぶ彼が。夢の記憶は曖昧でどこにいこうとしていたのかも思い出せなくて、でもただ楽しくて目が覚めたとき泣いていた。
ここ数年彼の夢なんか見たことがなかったのに。本当に嘘のよう。出来すぎているほど幸せで、同時に後悔が滲み出ているような夢だった。
ごちゃごちゃした想いを、恨みを全部取っ払った私に残るのは結局、彼とこうなりたかったという願望だけなのかもしれない。
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