テキストサイズ

words

第2章 クラゲ

撮影はそのあとも僕が失敗した分の時間だけ予定より遅らせて進められた。

遅れていはいるものの、それ以外に特に支障はなく、最終日を迎えた。

最終まで予定とは遅れて、最後のシーンの撮影が夜中になってしまった。

本当に申し訳ないと思う。

「打ち上げは明日にしようか。今日はパパっと撮影だけ終わらせてしまおう!」

監督の掛け声と共にスタッフさんが手際よく進めていく。

その様子をぼんやりと見ていて僕は近づくタイムリミットをずっと気にしていた。

今日の撮影が終われば大倉とはしばらく会えなくなる。それまでに伝えたい。この絡まった糸のような気持ち。強くほどけないむしゃくしゃとした気持ちを。

今日、焼き肉にでも誘おうかと思ったが時間を考えるとそれは難しい。一緒に帰りたいが僕は最初の方で撮影が終わる。大倉はあとの方だ。

僕は騒がしいスタジオから一旦楽屋に向かい、撮影が始まる前に財布についている恋のお守りにつけていた熊のストラップを机のしたに潜ませた。

このストラップが僕の願いを叶えてくれると信じて。

最終はひとりひとりカメラの前で歌う。

ダンスの難関さえ突破できればあとはスムーズに進んでいける。

僕の撮影も何事もなく終了した。

「お疲れ様でしたぁ。」

とりあえず他のメンバー同様、スタッフに挨拶して先に帰るふりをする。

着替えを終えて、鞄をとる。なにげに机の下を確認すれば、熊はちゃんとおとなしく待っていてくれている。

満足に顔を緩めれば、僕は楽屋をあとにした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ