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第1章 words

「はぁ…はぁ…すばるくんっ…」

「……。」

「汚いもん飲んで大丈夫?」

「…汚ななんかない。」

あの声、瞳、笑顔。

見ればわかる。よっぽど俺の方が汚ない。

大倉の清んだ心は、濁らせきれなかった。

急いでネクタイを外し、服を着せる。カメラを治すぐらいならとっくに終わってるかもしれない。

俺が撮影場に様子を見に行こうと立ち上がると、後ろから細い手がすっと回ってきて動きを止めた。

「すばるくん…。ありがとう。」

「…ふぇ?」

耳元で予想だにしない言葉をかけられて、情けない声が出た。

「…な、なんで!?」

「僕に新しい世界を見せてくれたから。」

「新しい…世界…」

「僕、ずっと怖かってん。男同士でキスしたりイチャイチャしたりすんのが。」

健全な男性ならそう考えるだろう。この世界が異常なだけで。

「でも、すばるくんは優しかった。最初はめっちゃ怖かったけど。」

「優しくなんて…」

「嬉しかったで。」

「…頼む…染まらんといてくれ…。」

「…すばるくん?」

嬉しいはずやのに…。もしかしたら両思いになれるかも知れんのに…。

俺は抱き締める大倉の手をほどいた。

振り向いてみるも顔を見れずゆっくり遠ざかる。ただでさえ小さな俺がさらに小さくなる。

「こんなことして…今更やけど…染まらんといてくれ…大倉は…きれいなままでいてくれ。」

「なにゆうてんの?」

ほほを伝う涙をそのままに大倉を見上げた。

「俺みたいになったらあかん!!大倉は!!大倉はきれいなままでおらなあかん!!こんな世界、知らん方がええねん!!」

「すばるくん…。」

「お前は…お前のままでいてくれ。わかったな?」

「なんで!?なんでそんなに…」

後ろで聞こえる声から逃げるように楽屋の外へ出た。

そこでようやく涙をぬぐった。

言えるわけがない。きれいな大倉に本気で恋をしたなんて。

俺の名前は渋谷すばる。関ジャニ∞の末っ子は純粋な大倉忠義です。

(あの、カメラ戻りました?)
(ん?ああ。忘れてた。渋谷さんまだでしたね。)
(…え?)
(大倉さんが終わってからテープの残量がなかったので変えてたんですが、すっかり忘れてました。ごめんなさい。今から準備しますね。)
(…忘れてた!?……ほんなら大倉がゆうてたんはなんやったんや?)

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