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第2章 クラゲ

「ええなぁ。ハワイ…。つれていってや!!」

「遊びにいくんとちゃうんやから無理やって。」

「みんなで海外とか行けたら楽しそうやな…。」

「ええなぁ!イタリア美人見に行こうぜ!!」

「いっすねぇ!!さっすが師匠!!どこまでもついていきまーす!!」

「お前らはそれしかないんか!?」

今日はミュージックビデオの撮影初日。

この撮影が終わったら大倉は映画の撮影のためにハワイに飛んでいく。

メンバーの全員がその話でもちっきりだ。

「ヤスはどっか行きたい国、ある?」

「…え?……んん。みんなと一緒やったらどこでも楽しいと思うからどこでも。」

ボーッとしていた俺に横ちょの声が通ってきた。

「…どうしたん?体調悪いんやったらマネージャーに言おうか?」

輪に入らずにただ話をするみんなを見ているだけの僕にわざわざ輪から外れて話しかけてきてくれた。

こういうちょっとした優しさが横ちょは普通に出してくれる。

「ううん。大丈夫。みんなと話しててええで?」

僕はみんなからさらに距離をおいてファッション紙に目をやる。

別にみんなと話がしたくない訳じゃない。むしろ、もっと仲良くなりたい人が今、話の中心なのだから入っておくべきだ。

だけど、今、あまりに距離を近くしすぎると怖くなる。

僕が勝手に距離をとってるだけなのだが、そうしていないと二人の間でなにかが壊れるように思うから。

話しが盛り上がり、僕と横ちょを除く五人が一斉に笑えば、建物中に笑い声が響く。

強い寂しさが雑誌の上にため息を落とした。

「失礼します。そろそろよろしいですか?」

微かに聞こえたノックのあと、僕らはスタジオに呼ばれた。

まだ尾を引く笑い声。

横ちょの影に隠れて、そんなみんなを後ろからそっと見ていた。

近くて遠い、この距離の中で。

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