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第2章 クラゲ


撮影は順調に進むはずだったが、ハワイのことが頭からこびりついて離れず、思うように踊れない。

「カットー!!」

「すいません!!…え?こう…タンタンタタタッ…」

今まで他のダンスにも取り入れたことのある何度もやりなれた動きのはずが今日はできない。

正直焦っていてむしゃくしゃする。

「…そこ、右足軸にしたら次いきやすいで。」

唇を噛み締める僕にふんわりとした大倉の声が聞こえて、顔をあげる。

何もかもを包み込むような笑顔に照らされて、僕は足を止めた。

「…って、前、ヤスに教えてもらったで。」

そう言うと僕の頭をさらっと撫でて渋やんのもとへと行ってしまった。

渋やんも苦手なダンスにあたふたしているようで、僕がダウンしている今、教えるのは大倉の役割になっていた。

「…これって…え?足どないなってんの?」

「だから、こっちの足を右にして、で、六拍目で後ろに下げて…ちゃうよ!すばるくん、おっさんやな。」

「もう年だけはしゃあない。根気よう教えて」

「認めるんやぁ。」

大きな口をこれでもかと開けて笑う姿がじりじりと脳裏に焼き付く。

「安田章大!!」

「はいっ!?」

突然の声に我に帰ると横ちょが僕を睨むように見下ろしていた。

「すばるですら踊れてんのに…。どうしてん?」

「あぁ…。なんやろう、ごめんな。今覚え直すから。えっと…。」

「大倉となんかあったんか?」

踊ろうと構えたがたった一言で頭のなかが真っ白にリセットされた。

「…なんかあってんな。どうしてん?……俺にもいわれへんのか?」

「……横ちょ…。僕、どうしていいかわからんねん…。」

暖かいお兄ちゃんみたいな横ちょの体温に僕は甘えた。

強く抱き締めた横ちょの心臓の音が心地よくて、僕は落ち着きを取り戻していった。

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