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理想と偽装の向こう側

第12章 板ばさみ

嘉之は、私たちの姿を確認して静かに向かって来る。



「こんばんは。渡辺さん…ちょっと話せる?」



直立不動になっていた私に、樋口さんは



「なべちゃん…私帰るね!」



気を付かって、そそくさ帰ってしまったが、私には状況が却って悪い。



でも、フロントのここなら下手なことも出来ないよね…。



「香織、帰るだろ?車で、送るよ。」



はい!?車~!!



「車…買ったの?」
「あぁ、先月に、賞金も出たし。」



相変わらずな不敵な笑みで、指で鍵を回している。



「そっか…入賞してたね。おめでとう…。」



言ってたコンテストに嘉之は入賞していた。 



「特賞は、退がしたけどな…。」



「でも…凄いよ…。いい作品だったと思う。」



嘉之は、一瞬黙って



「そう?じゃあ、お祝いしてくれる?」



「えっ!ご、ゴメン!今日は友達の家で中華パーティーをやるから!」



咄嗟に言ったが、あながち嘘じゃない!



「…じゃあ、またの機会だな…送るよ。」



嘉之は、そう言って駐車場に向かい始めた。



はぁ~。今日は帰れそうだな。


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