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理想と偽装の向こう側

第16章 懐古

「いや…楽しいよ!俺も動物園なんて、小さい頃に来た以来だし。」



水越さんは、俺を見上げて微笑みながら、



「そうですか!私も小さい頃一回来たっキリで…父に連れて来てもらったのが、懐かしくて…。」



父に…?



そう言えば、滝島が水越さんが苦労もしてたとか言ってたよな。 



「お父さん…どうかされたのかな?」



「あっ!父は私が小学校の時に病気で亡くなって…それから母が働き詰めで、一人で私と姉を育ててくれたんです。」



あっ…だから家事を手伝っってたのか。



「ごめんね…不躾だった。」



「そんな事ないです!私が話し出したからだし!こうやって小田切さんと、動物園に来れて、本当に嬉しいです!」



水越さん…強いな…。



「お父さん…優しかったんだろうね…。」



「はいっ!過ごした年月は、短かったけど、優しかった父の思い出は沢山あるんです!」



屈託なく笑う彼女に、芯の強さと眩しさを感じて、胸の奥から熱くなる…。



守りたい…。



本気で思った。


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