優しくしないで
第16章 私の一部
仁さんは、袖で涙を拭き取ると…
気を引き締め…ハサミを握った…
そして、キリリとした目で私を支えてくれた過去の毛先を…
未来の私のために…切っていく…
真剣な目…
太一の…
ゴールへ向かう
厳しくも、先を見つめる視線を思い出す…
重なる…太一と仁さん…
歳も、何もかも違う二人なのに…
目が…似ている…
太一は…
もう…この世にはいないのに…
こんなにも、鮮明に…思い出す事が出来る…
まだ…太一…が…側にいる…
仁さんの瞳で…
太一を思い出し…
下唇を噛む…
「…留美ちゃん…前髪切るから…目…閉じて…」