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月琴~つきのこと~

第3章 第二話 【月琴~つきのこと~】 一

 急に姉がいなくなったと大騒ぎする父や母、番頭たちの声高な話し声で邸内が異様な雰囲気に包まれていた。その喧騒の中、妙乃は一人廊下に佇んで、夜陰にほの白く浮かび上がる桜花を見つめていたのだ。両親の愕きと深い嘆きの中、あの日、季(とき)は春、この桜の樹は盛りをやや過ぎてはいたものの、艶(あで)やかな花をいっぱいにつけていた。

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