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月琴~つきのこと~

第4章 第二話 【月琴~つきのこと~】 二

 良人が帰宅した時、妙乃は既に布団に入っていた。嘉平太が部屋に入ってきた刹那、安っぽい脂粉と酒の匂いが入り混じった饐えた異臭が鼻につき、妙乃は思わず吐き気を憶えた。所帯を持ってから半年を経た今もまだ、嘉平太との間には夫婦の交わりはない。
 妙乃は直感で良人が女を抱いたのだと悟った。怒りよりも奇妙な空しさが妙乃を襲った。祝言の夜よりももっと大きな哀しみと切なさが渦を巻き、胸の内で荒れ狂った。

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