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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

「俺だって、お嬢さまが好きだ。誰にも渡したくはない。だけど、俺にはお嬢さまを幸せにすることはできない。お嬢さまが好きだからこそ、この想いを貫き通すことはできないんです」
 恋しい男の胸に抱きしめられ夢見心地の小文に、治助の言葉は無情に響いた。治助も小文の許婚者嘉平太の存在は知っているだろう。小文と治助の恋は、多くの人々を裏切り哀しませなければ成就することはできない。そのことを治助はよく承知している。

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