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月琴~つきのこと~

第1章 第一話【宵の月】 一

 惣右衛門は端(はな)から次女の小文に聟を取って信濃屋を継がせる算段であった。小文には既に親同士が決めた許婚者がいる。同じ呉服問屋の大和屋の次男嘉平太である。
 大和屋は信濃屋にも引けを取らない大店であり、嘉平太は小文より八つ上の二十三になる。見合い婚であり、当の嘉平太ともほんの数度しか逢ったことはないが、無口で穏やかそうな男という印象だけで、特別な感情はなかった。

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