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月琴~つきのこと~

第2章 第一話【宵の月】 二

「どこか具合でも悪いのかな」
 嘉平太は心配そうに訊ねてきたが、小文は微笑んで首を振った。
「あまりにも大勢の人だったので」
「そうか。人いきれにやられたのかもしれないね」
 誰に対しても温厚で誠実な嘉平太は、生涯の伴侶とするには申し分ないだろう。同業の店の倅でもあり、信濃屋の主人としてもそつなくやっていくに違いない。だが、小文には既に嘉平太との将来は考えられなかった。

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