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月琴~つきのこと~

第2章 第一話【宵の月】 二

 小文はたった一人、父の居間に呼びつけられた。その前、母が呼びにきたときから覚悟はしていた。母は泣き腫らした赤い眼をして、不安げに小文を見つめていた。母がすべてを知っていることは明白だったけれど、小文は敢えて何も問い質そうとはしなかった。
 いつも影のように父の傍にひっそりと寄り添う母である。優しい母を哀しませていると思えば涙が出たが、すべては判りきっていたことだ。それでも、治助を選ぶと、心はとうに決まっている。今更、迷いは微塵もなかった。

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