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　そして、幸はひそかに婚約者のことを思った。一昨日、薔薇の花束を持って、わざわざ邸まで見送りの挨拶に来てくれた許婚者皆木進一郎(みなぎしんいちろう)は伯爵皆木倫光(ともみつ)の嫡子である。倫光と幸の父高友は帝大の同期生であり、無二の親友でもあった。その縁で皆木伯爵家と京極男爵家は家同士の付き合いがあり、進一郎と幸も幼時から親しく遊んだ仲であった。