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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第9章 第三話【波の音】 絶望の果て

 幸は力ない足取りで歩いた。半月が漆黒の夜空に浮かんでいる。月さえ今の幸の眼には映じてはおらず、幸は緩慢な動作でひたすら歩き続けた。亮平の家は村外れにポツンと一軒だけ離れて建っている。申し訳程度の庭には、銀色の月光を浴びて、うっすらと色づき始めた紫陽花が植わっている。庭ともいえないようなささやかな庭を横切れば、そこはもうすぐ海であった。

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