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空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第9章 第三話【波の音】 絶望の果て

 幸の瞳に涙が溢れていた。ふいに幸の身体の奥底から熱いものが込み上げてきた。それは強いて言うならば、哀しみに限りなく近い切なさとでも言えるものだった。幸は亮平に取りすがって泣いた。まるで幼子が親の懐にいだかれるように亮平の逞しい胸に顔を埋めて、声を上げて泣いた。その背を亮平が幼子にしてやるように優しく撫でる。亮平は幸が泣き止むまで、いつまでも慈愛に満ちた様子でその背を撫で続けた。

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