空の記憶~あなたと私と彼、それから~
第9章 第三話【波の音】 絶望の果て
鬱々とした毎日の中で、亮平とは何度か身体を重ねた。亮平の求めはけしてそれほど強引なものではなかったが、幸はさしたる抵抗もせずに大人しく彼に身を任せた。素直に亮平を受け容れたのは、別に自棄になっていたわけではなく、ただ生きることに執着を失っていたからかもしれない。浩三や子どもたちに二度と逢えず、死ぬこともできないのならば、最早生きている意味はない。心を殺して生きながら死んでゆくしか、今の幸には取るべき道がないように思えた。