テキストサイズ

空の記憶~あなたと私と彼、それから~

第17章 番外編第二話【薔薇ものがたり】~或る画家の絵~

 狭い部屋の中にひそやかな衣擦れの音だけが響いた。やがて、肌襦袢さえもはらりと音を立てて畳に落ち、背を向けていた弥生がゆっくりと伊右衛門の方に向いた。
「―きれいだ」
 生まれたままの姿の弥生を見て、伊右衛門が掠れた声で呟く。その声音には、素直な感嘆が込められていた。
 伊右衛門は備前焼の花瓶から薔薇の花を抜き取ると、その花びらを摘んだ。伊右衛門が撒く真紅の薔薇の花びらが弥生の肌を飾る。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ