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　まだ十六の幸には、そういった知識は何もなかった。ましてや、幸は華族の令嬢として大切にかしずかれて育った少女だ。たとえ自由闊達な家風の男爵家においても、こと男女に関しての、性的な知識が幸に与えられる機会は皆無であった。婚約者の進一郎との関係も極めて淡い、兄妹(きょうだい)のようなものでしかなかったのだ。