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近くて遠い

第16章 朝食の味

「何が『あ~ん』だっ、ふざけるな」


耳元で囁かれて身体が粟立った。


声を聞くだけで、身体に快感が走る…


「なっ……だって…古畑さんがっ…んっ…そう…するのが、習慣っ…あぁ、…て…。」


「なに?」


光瑠さんは、中途半端に愛撫をやめると、眉間に皺をよせて息の上がる私を見た。



「はぁ…だっ、だから…古畑さんが、光瑠さんは食事の始めにフルーツを『あ~ん』ってやらないと怒こるって…。」


「………お前、それ信じたのか…」



「えっ……」



「そんな馬鹿馬鹿しいこと俺がメイドにさせるわけないだろっ!!」



やっぱり…嘘だったの!?

急に恥ずかしくなった私はどうしていいか分からず目を泳がせると、光瑠さんは大きくため息をついて、私の胸に顔を埋めた。



「……これを運ばせたのも、古畑か…」


うつ向いたまま光瑠さんはブドウを指差した。



「あ、はい…ミネラル豊富なフルーツはちゃんととるべきだって…」


私がそういうと、光瑠さんはチッと大きく舌打ちした。


こわいっ…


顔は上げてないけど、何だか殺気立っているのは目に見えて分かった。



「…古畑っ!!!」



突然叫び出した光瑠さん声に驚いて私はビクンと身体が震えた。


「…お呼びでしょうか……」


「わっ!?」



外で待ち構えていたんじゃないかというくらい、凄まじい早さで登場した古畑さんに私は驚きの声を発した。


「お前っ……なんなんだ、昨日からっ!からかうのもいい加減にしろ!」


「はて…何の事でしょうか…?」


「っ!?とぼけるなっ!!その忌々しい粒々を持って去れ!」


凄い剣幕で怒鳴り付ける光瑠さんの膝の上で私は存在を消すように縮こまった。


忌々しい粒々…って…

ブドウのこと…かな…

もしかして、光瑠さん、
ブドウ……嫌い…?


「おや、グレープが混ざっていましたか、それは失礼致しました…。ん?光瑠様お食べになられたのですか?」



古畑さんは自分が乗せるよう指示したにも関わらず、知らぬふりをして、減っているブドウをみて何故か嬉しそうに笑った。



「っ…いいから去れ!」



光瑠さんの怒りは収まらない。


にも関わらず古畑さんは何故か勝ち誇った顔をして、ブドウを持って部屋から出ていった。




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