テキストサイズ

近くて遠い

第26章 糸の綻び

───────…


お医者さんと看護婦さんが慌てている。


ピッ───ピッ───


と機械の音がする。


私はこの無機質な音が嫌いだ。


「お母さんっ、お母さんっ!」


「真希様いけません!」


必死にお母さんの元に行こうとしても、愛花ちゃんに押さえ付けられて身動きが取れない。



「先生何か言ってます!」


と看護婦さんがお医者さんに叫ぶ。


「いやっ!いやいやいや!」


叫びすぎて喉が痛い。

いやだ、お願い、神様…


まだ…


まだ連れていかないで──


「真希様、お母様が呼んでいます。」


振り返ったお医者さんの声に私は愛花ちゃんの腕を力一杯振りほどいてお母さんの元に駆け寄った。





「ま………き…」



「お母さんっ!」


シワでいっぱいの目尻から涙が流れて、
枕に染みを作っている。



「ごめ……ん…ね…」



「なんで謝るの…」


私は手の甲で涙を拭って
自分の瞳にしっかりとお母さんをうつした。


「迷惑……たくさ…ん…かけたから……」



お母さんの言葉に私は激しく首を横に振った。

「愛して…る……」


細い手が震えながら空を舞う。


「私もっ!私も…」


さっき拭ったばっかりなのにまた涙が私の視界を邪魔する。


「はや…と…にも、つたえて…?」



「何でよ、お母さんがっ…
お母さんが自分で伝えればいいじゃないっ…」



空を舞っている手を掴んで私は少し笑いながら言った。



「あとね……おとうさんのこと……うらま…ないで…あげて……?」


ずっと話していなかったお父さんの事が出てきて、私は目を見開いた。



ピッ───ピッ───



機械が


うるさい。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ