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近くて遠い

第27章 出発

────────…

窓の外に広がるきらびやかな光を眺めながら、
光瑠は大きな口を開けて欠伸をしていた。



「何とかうまくいきそうで良かったですね」



「そうだな。」



泊まっているホテルのバーで頼んだワインが心地よく光瑠と酒田の身体を巡っていた。


「酒田、これもう一杯頼んでくれ。」


「まだ呑むんですか…?さすがの社長も酔いつぶれませんか?」


ほんのり顔を紅らめた光瑠を心配そうに見ながら、酒田が弱めに諭す。



「平気だ。
俺は酔いつぶれた事は一度もない。」


そう豪語する光瑠に最早反論の余地はなく、酒田はフランス語でウェイターにワインを頼んだ。



窓を眺める光瑠の華麗な姿に酒田は、目を奪われた。


アジア人がヨーロッパにいるとよく目立つが、

光瑠に関しては何の違和感もない。


むしろ日本では目立ちすぎていたので、こちらにいる方がしっくりくる、とさえ酒田は思っていた。

「日本は…今何時だ。」


窓を見つめたまま光瑠が酒田に尋ねた。



「時差が7時間なので早朝5時ですかね。」


「……5時か…寝ているな」


ウェイターが持ってきたスパークリングワインを飲みながら光瑠が呟く。



誰が、とは聞くまでもないことだ。


出発してから光瑠がずっと気に掛けているのは、彼女しかいない。



「心配ですね…」


出発前にチラと見かけたやつれた真希の姿を酒田は思い出していた。



「……あぁ。」


光瑠が顔を歪ませて髪をかきあげる。



「呑まないと……」



「はい?」


丁度別の席の客が、わぁっと笑い出して光瑠の言葉が聞き取れない。



「社長、何て言いました?」


顔を近付けて聞くと、

顔を上げた光瑠の瞳が酔いで大きく揺れていた。



「呑まないと、眠れない。」


それはひどく悲痛な叫びに聞こえた。



「疲れてはいるし、眠気はあるんだが、
目を瞑るとあいつが…
一人で泣いている顔ばかりが浮かぶ。」



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