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近くて遠い

第32章 祭り

「これでか…?」


受け取った薄い紙の張った輪を要さんが怪訝そうに見つめる。



「破れないように、それでスーパーボールをすくってお椀に入れるんです。」



しゃがんだ要さんの隣に私もしゃがみながら言った。


目を丸くした要さんに私は思わず吹き出して笑った。


「冗談でしょ……」



「ふふっ、冗談じゃないですよ、ほら。」



私は隣でそっとスーパーボールをすくうカップルの方に視線を向けた。



器用に3つすくったあと、破れた紙を見て笑い合う幸せそうな二人──



「ほんとだ……」



「ね?」



要さんの顔を見ると困った顔をしてううんと唸っていた。



何だか、今日はとても幸せだ。


飾らない要さんが心地いい…



「隼人、何個欲しいんだ?」



射的の時とは違って自信無さげな声で要さんが尋ねる。



「う~んとね…」


隼人は天を見ながら、小さな指を順番に折り数えて行く。



「4、5、6……6個!!」


「6個っ!?
多くないかっ!?」



びっくりして身体をビクッとさせた要さんをみて、私は笑った。



「よしっ!」


意気込んだ要さんは勢いよく水に紙の張った輪っかを突っ込んだ。



「あっ、要さん、そんな勢いよくやったら…」



一気に3つ取ろうと要さんがすくうと、

ふにゃっと紙が破れてスーパーボールは再び水槽の中を浮遊し出した。



「「ああああーー」」



声を揃える要さんと隼人。


やっぱり、
何でも出来るって訳じゃないみたい。


でも、そんなところがすごく人間味に溢れてて、
すぐ顔に出すところが何だかとても、見ていて心が和んだ。


ごめん!と手を合わせて隼人に謝る要さんを見ながら、私はお金を払ってもう1つ紙の張った輪っかをもらった。



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