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近くて遠い

第32章 祭り

────────…


「私ね、これ得意なんです。」


そう言って真剣な顔になった真希の横顔を要はじっと見つめた。



水の表面を滑らすように真希は手を動かし、順調にスーパーボールをお椀に入れていく。



「器用だなぁ…」



そんな事を要は呟きながら、真希を見守っていた。



普通の、こんな光景を見れることが堪らなく幸せだった。


つまらなく一様だった世界に急に色がついたような、そんな感覚──


ああ、と声を出して、スーパーボール5個でゲームオーバーしてしまった真希の悔しそうな顔が可愛らしくて、要は思わず口元を緩めた。


隼人は袋に入った5つのスーパーボールを眺めながら、1つ足りない!と駄々を捏ねた。



「もう一回やりますか?」


わがまま言わないの!と隼人を叱る真希に要が声を掛ける。



「ダメですよっ…そんなわがまま許してたら!」



と厳しく言った真希の顔が完全に母親の顔だったのを要は微笑ましく眺めた。



「だって一人足りないんだもん!」



声を張り上げていまだに駄々を捏ねる隼人を要が持ち上げた。


「なんだ?
6個も誰にあげるんだ?」


ムッとむくれている隼人の機嫌を取ろうと要は隼人を肩車しながら、尋ねた。



身長の高い要に肩車され、祭りの主になったかのような気分になった隼人は、わっきゃ言いながら、要の質問に答える。


「うんとね、
まず僕の分でしょー?」


うんうんと首を振りながら、要は隼人の足を持った。


「お父さんとお母さんでしょー?」



真希も要の横を歩きながら、隼人の声を聞いていた。


「お姉ちゃんと、かなめでしょー?」



「お!俺にもくれるのか。」


要は少し顔を上げて指を折っている隼人を眺める。



「あとは…



ひかる!!」





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