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近くて遠い

第1章 雨に打たれて

「カナメ様!!何をしていらっしゃるのですか!!もう時間がありませんよ!」



「あぁ…分かっているよ…」



突然彼の背後から声がして、彼はダルそうに振り返った。



カナメ……?


この人の名前かな…



「斎藤、交番に行って警官を呼んできてくれないか」



「交番!?
なぜですか!というかそんな時間はありません!急いで下さい!」


「…お前にはここに酔っ払いが倒れているのが見えないのか!」



何が何だか分からずに
私は黙って二人の会話を聞いていた。


彼の背が高すぎて、
会話の相手は全く見えない。



「酔っ払いなんかほっとけばいいじゃないですか…
それよりも重要なことが…」


「なら俺がいく。」



彼はそういうと私を放して傘を持つように促した。



「えっ!?
ああ~もぉ…分かりました、私が行きますから…
警官呼んだらすぐに車に戻ってくださいね?!」


「頼んだ、斎藤。」


少しだけ嬉しそうに彼がそう言ったあと、雨の中斎藤と呼ばれた人が走る音が聞こえた。


「さてと。」


彼は後ろを見て斎藤さんが交番へ向かったのを確認すると、ヒョイッと軽々しく酔っ払いを持ち上げて、屋根のある下まで運び出した。



そして、
元の場所に戻り落ちていた財布を拾って、顔を上げた。



「魔がさしたってことか…?」



雨にうたれて濡れた黒髪


キリっとした顔立ち


さっきは傘に隠れてよく見えなかったけど、

この人相当かっこいい…



「金がないのか?
そんな汚い身なりで…。

おい、聞いているのか…?」



「え……あ、あの、私は別に…」



あまりの美形に呆然としていた私は答えを促されて、むにゃむにゃと小さく声を発した。

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