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近くて遠い

第1章 雨に打たれて

「まったく…」


彼は私の要領得ない回答に愛想をつかしたようにすると、持っていた財布を酔っ払いのポケットにしまった。


「手ぶらで、しかも傘もささずに…
まだ君…若いだろ。高校生…か?」



「いっいえ…
高校はやめました…
カバンはさっきひったくられて…
傘はあまりささない方なんで…」


された質問に一気答えると、彼は眉をひそめて怪訝そうに私をみた。



「変わってるな、君。
ひったくられたって…

あぁ…なるほど。
それで、魔がさしたんだね。」


何て答えたらいいのか分からずに私はその場でうつ向いた。


彼の言う通り、

魔がさした。



彼が止めてくれなかったら今頃あの酔っ払いの財布も掴んで家に帰っていたかと思うと、とても怖かった。


最低だ…


いくらお金に困っているからと言って、そんな人の道に外れるような行いをしようとした自分に腹がたった。



「ほら、これ。」



「え?」



彼はうつ向く私の手をとって何かを握らせた。



「少ないけど、とりあえずどうにかなるだろ。」



手の中を見るとそこには折られた一万円札が何枚か乗っていた。


「そっそんなっ…

申し訳ないです!
今知り合った方にこんな…!!」




「じゃあなんだ、
今度は他の誰かの財布を盗むのか…?」



「………」



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