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春の風

第9章 回想 side.瑞香


別に、やつを好いていたわけはない。
ただただ、面倒だった。
自分で物事を決めるのが。

だから、やつの言われた通りに学業では常にトップクラスに位置したし、医者にもなった。

それは、自発なんかじゃない。
受身だ。

僕は、ただの人形のようだ。
生きたくて生きるわけでなく。死にたいと思うことすらない。いつか、しぬのか、について議論しようと、怖くもない。むしろ、中身のない自分の方がよっぽど恐ろしい。

僕は、いつか。
生きたくて生きる日が来るんだろうか。
それとも死んだ母のように、死にたいと思う日が、くるんだろうか。



僕には、願望がない。











いや。
あるのか。


僕は、願望が欲しい。
何かを求める心が欲しい。
無気力な自分が、憎たらしくて堪らない。

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