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春の風

第11章 1. reunion

他の娘息子や、春樹の子どもたち、すなわち孫たちとは何度か顔を合わせたり、連絡をとったりしているが。
どういうわけか、春樹とは電子メェルのやりとりなど、したこともないし、アドレスすら知らない。
それは、春樹が子どもの頃からだった。

春樹は、男の嫡男である。
幼少期から物静かで、手のかからない息子だった。
暇さえあれば、本を読み、勉強した。
男は、多忙な臨床医であるゆえに、自分から寄り付かぬ春樹とは自然とやりとりも、少なかった。


『ねぇ、あなた。春樹くん、大丈夫かしら?あの子、笑わないのよ。』


男は。
とっくになくなった妻が自分が夜中帰宅したり、電話で話すとしきりにこのセリフを吐いていたことを思い出した。


「あいつも父親なのか。」

庭先に出て、
白い煙を吐きつつ、ぼーっと考える。



「自分は、どんな父親に写っていたんだろうな、小百合。ダメ親、か。」

男は、亡くなった妻に話かけるように、呟いた。


「すまない、な。」


自らを嘲笑するようにして、男は吸殻をアスファルトにたたきつけ、踏み潰した。


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