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身代わり妹

第11章 疑心

笑顔で、母と楽しくお喋りなんて…

絶対あり得ないと思っていた。


母は、私が借りていた寮の部屋も追い出され、今は母の実家に住んでいるそうだ。

母の兄家族が住んでいるために居心地が悪く、

「働いてお金を貯めて、早く実家を出たい」

と言っていた。


─────”働いて”…

自分で働いて、自分の生活を築く。

あの母がそう言ったんだ……。


”お金を寄越せ” とは言われなかった。

そんな母の変わりように、私は嬉しくて泣いてしまった。


母は、私をぎゅーっと抱きしめてくれた。

初めて抱きしめられた母の腕の中は、ローズ系の香水の匂いがした。



そして、

居座る事なく、母は帰宅する。



母が帰り、しばらくすると由美さんからメールが来た。

看護師さんたちと飲みに行くらしい。

院長先生も遅くなるから、夕飯は凌太と2人で済ませてとの事だった。


「うーん、夕飯どうしようかな」

母が変わってくれたお祝い?

母と楽しく過ごせたお祝い?

早く凌太に話したいな…

何て、言ってくれるかな?



涼しくなってきた為、夕飯を作る前にカーディガンを羽織ろうとクローゼットを開ける。


──────────…

─────…?

なんだろう、この違和感。


─────あ…

タンスの引き出し……何処も中途半端に開いてる。



まさか……

まさか、ね……?

恐る恐る、貴重品を入れていた引き出しを開いた。



「─────…っ‼︎ 」


由美さんが返してくれた通帳。

赤ちゃんの為に使おうって由美さんと笑い合った通帳。


その通帳が……消えていた。


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