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秘め事は月の輝く夜に、あなたと~後宮華談~

第3章 すれ違う心

 尚宮ともなれば、護身術の一つくらいは身につけていて当然だ。あのときの女盗賊からは明らかに異様な雰囲気―殺気が漂っていた。現に、取り押さえた賊は、懐剣を右手に握りしめていた―。
 だが、今、忍び込んできた者から、そのような邪悪な思念は一切感じられない。そういえば、王付きの尚宮に推挙した孫尚宮とは最近、殆ど話していない。むろん、同じ後宮内に住まう身とて、顔は毎日のように合わせる機会はある。しかし、以前のように親しく言葉を交わすことはない。

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