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開花

第1章 ―

 さて、カエルがいなくなってしまったので、これで無事に、家に入ることができるはずだったのです。

 わたしはランドセルの中から鍵を取り出して、鍵穴に差し込みました。

 ところが鍵を持つ右手を回そうとした瞬間、がつんと、お尻に何かがぶつかってきました。

 思わず扉に、おでこをにぶく打ちつけてしまいます。

 わたしはずきっとするおでこを右手で押さえ、がくっとするお尻を左手で押さえ、そんな吹き出してしまいそうなおかしいポーズをとりながら後ろを向きました。

 向かい家の玄関と、そのわきに停まっている緑色の車が見えるだけで、そこには誰もいませんでした。

 わたしははっとして、足元に目をやりました。

 驚いたことに、先ほどの醜いカエルが、げこげこと風船のように膨らんだのどを鳴らせながら、こちらを見上げていたではありませんか。

 そしてやつは、にやりと、勝ち誇った笑みを浮かべていたのです。

 ざまあみろと、その黒い瞳がわたしのことをあざけっていました。

 わたしはぷっつんときてしまいましたから、足を高く上げると、カエル目がけてためらいなく振り下ろしました。

 怒りのあまり、空色の靴が汚れてしまうことなんて、ちっとも考える余裕はありませんでした。

 こんな下品な生き物は、中の臓器がぼろりと飛び出て、ぐちゃぐちゃに死んでしまえばいいんだ。

 そのように思いました。

 しかし残念、わたしの靴はポーチを踏んでしまい、だんっと音を立てたのです。

 カエルはまるで、蚊のように軽々とわたしの攻撃を左にかわし、さっと身を縮めると、棒となっていたもう一方の足に、体当たりしてきました。

 支えを失ったわたしは、手を空中でぶらぶらとさせて、前のめりに倒れてしまいました。

 しかもまるで、手品みたいに、わたしの腕の中からランドセルがぽーんと抜け飛んでしまったのです。

 ランドセルのベルト部分はうまい具合に柵に引っかかりました。

 その一連の流れを、カメラで撮影しておきたいほどの具合でした。

 きっとあとから見返せば、おかしくって笑ってしまいそうな映像になったことでしょう。

 わたしは倒れる瞬間に、なんとか顔と地面の間に両の腕を差し込みました。

 が、それでもがあんと頭の中が強く揺れました。

 ほんの一瞬だけですが、星が見えたような気がします。

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