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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第1章 恋花(こいばな)一つ目~春の夢~壱

     《其の壱》

 春の月が夜空に朧に滲んでいる。花の甘い香りを含んで、夜気がしっとりと潤んでさえいるような春の宵であった。呑まぬ酒に酔ったような快い酩酊感に浸りながら、夜道を男が歩いている。
 だが、たった今、出てきたばかりの一膳飯の主喜平の科白が耳奥で甦ると共に、そのほろ酔い気分も一挙にどこかに消えてしまった。

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