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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第3章 春の夢 参

「おい、大丈夫か?」
 清七の声が頭上から降ってきて、お須万は相当に愕いたようだ。弾かれたように面を上げ、清七の姿を認めるとピクリと身を震わせた。
 その可憐な顔が見る間に強ばってゆくのを、清七は哀しい想いで見つめた。
―この女は、どうして、こんな幽鬼でも見たような顔で、怯えた眼で俺を見るんだろう。
 ただ遠くからその幸せだけを祈ろうとする男に、どうしてこんな怯え切った眼を向けるのだろう。

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