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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第6章 恋紫陽花 弐

 源治にとっては、己れの恋心をひた隠し、お民と適度な距離―気の置けない隣人として日々接するだけでも、相当の努力が必要だったのだ。むろん、その努力が功を奏してかどうかは判らないけれど、目下のところ、徳平店で源治がお民に恋心を抱いていると見抜いている者は一人としていないだろう。
 たった、一人を除けば。
 そう、他ならぬ兵助、お民の良人だけは、もしや自分の想いに気付いているのではと、源治は幾度か考えたことがあった。

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