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花は月明かりに濡れて~四つの恋の花~

第7章 恋紫陽花 参

「―お民」
 いつもは〝お民さん〟と呼ぶ源治が、今夜に限って〝お民〟と呼んでいる。が、お民はそんなことに気を払うゆとりはなかった。
 源治は少し躊躇うそぶりを見せた後、お民をふわりとその腕に包み込んだのだ。
 それでも、最初、泣きじゃくっていたお民は、自分の身体がすっぽりと源治の腕に抱かれていることに気付きもしなかった。
「一人ぼっちじゃねえよ」
 優しい声が降ってきて、お民は泣きながら面を上げた。

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